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本の話 由起しげ子

ダイヤモンド
戦後初の芥川賞受賞作の片割れ。わたしは時代感覚に伴った『切実さ』を備える私小説(およびそれに類するもの)はわりに好きだが、それは由起しげ子のような高等遊民の思う『切実さ』とはどこか畑違いな印象を受ける。現代にもそのような呑気な人間はたくさんいる。まるで明治時代に戻ったかのように。
過不足ないほどの幸運に浴し、恵まれた立場である人間の、ある種人生をなめているような文学にあまり人生の一端を分け与えたくないというのが正直なところであるが、そうは言っても、昔は昔で今は今だ。当時は今よりも物書き志望の人間が少なく、かつ文学にまだ『品格』が求められていた時代だ。そのような時期であれば、選考委員がこの作を採ろうと感ずるのも不思議ではない。しかしどうにも、戦争を生き延びた作家の小説とは思えないものだ。


第二十一回受賞作(1949年)
わたしの評価 ★

わたしの印象に残った選評 私は、まだ、由起しげ子の取り澄ましたような気品は、信用していない。且つ、この婦人が、高名な画伯の夫人だと聞いて、よけい、賞をやりたくなくなった。ふしぎにも、全委員一致の声として、この夫人一人の受賞には、不賛成が唱えられた(舟橋聖一)
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