日本における実存主義文学の誉高い、安部公房の出世作。安部公房の独特な作風はよく「カフカ的」といわれているが、わたしも概ねそのように思う。では、敢えて両者に差別点を付けるとしたら、カフカは「現実」を描くのに対して、安部公房は「現実」ですらない何処かの危うい世界を描く、ぐらいのものだろうか。
『壁』の文体が非常にリーダブルなのは、安部公房自身が小説空間の拡張性の果てを探る意図を持ってこの小説を描いた証拠だとわたしは思う。そうした挑戦なしに、新しい文学の道は拓けないとも。
第二十五回受賞作(1951年)
わたしの評価 ☆☆☆
わたしの印象に残った選評 写実的なところなどは、ほとんど、まったく、ない。一と口にいうと、『壁』は、物ありげに見えて、何にもない、バカげたところさえある小説である(宇野浩二)
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