庄野潤三は『日常に潜む危うさ』をテーマにした小説を書くことが多いが、その作風はどうやらこの時代から不変のものであるらしい。この回の受賞者(小島信夫・庄野潤三)は作品より作家が評価されている憾みが選評から見て取れ、庄野もまたそのように評価されての受賞となった感がある。
またこれは特異なことだが、庄野の作品には必ずと言っていいほど、生き生きとした魅力を印象づける象徴的なシーンがあり、この小説の場合のそれはラストの何気ない風景描写だろう。特に意匠を凝らしているわけでもないのに、不思議と緊張感のある情景となっているのは驚くべきことだ。
第三十二回受賞作(1954年)
わたしの評価 ☆
わたしの印象に残った選評 サラリーマン生活の弱点を衝いたテーマで、このテーマは、このように明白に提出されると、皆んなが一応は心得ておくべきで、これは大勢に読んでもらいたいと思った。それに、この短篇は、うま味が多い。読みながら不安の心持が惻惻と迫って、やわらかい美しい文章で、香気のようなふくいくとしたものがある(瀧井孝作)
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