インターネット・各種SNSの発達した現代において、日本人の「白人崇拝」なる思想はサブリミナルのように伝播しているように思えるが、そういった考えは日本人特有の偏見でしかないとわたしは思っている。冷遇であろうと厚遇であろうと、人種差別は等しく悪であり、根絶されなければならない。
さて、この小説はそんな生ぬるい思想に冷や水を撒き散らすかの如く、白と黄の遠近法で世界の虚構を暴きつつ、その副作用ともいえるような、人々の苦しみと混濁を絶妙な温度感で描き切ったのだが、西洋を取り扱った小説にこれほどの重量を含ませることが、果たして現代の若手作家に叶えられようか。たとえそれが文化人であろうと芸術家であろうと、現代日本という地盤の上に立っている以上、偏見と理想に汚染された意識を少なからず持っているといえるのではないだろうか。また、その歪んだ思想のもと、異文化とのパラダイムを発見した気になっているのではないだろうか。
現実を描き出す、という文学に与えられた宿命に逆らいつつも、偽りの中にあるつかみようもない何かを追いかける、という目的でこの小説は成功した。これは、小説の中において本当に表現すべきものを表現しきれてさえいれば、手段はさして問題ではないということの手本のように思える。
第三十三回受賞作(1955年)
わたしの評価 ☆☆☆
わたしの印象に残った選評 「白い人」遠藤周作氏が当選したことは、西洋小説のようなものも日本人が描けるのだという意味で面白いと思った(瀧井孝作)
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