とてもリーダブルでわかりやすい文章。なので純文学というより、何だかミステリのような感触。わたしには戦争のリアルがまったくわからないので、こんな兵隊が果たして実在するのかという疑問があったが、フィクションだと一度割り切って考えれば殆ど気にならなくなった。
もしも、硫黄島で生命の極地を体感したこの元兵士が「同胞を殺した」という懺悔ではなく、「同胞を裏切った」という後ろめたさのような後悔の感情を抱いていたとしたら、わたしは間違いなく冷めていただろう。結果として、作りものとリアルの隔たりをうまく通過した、まとまりの良い小説に仕上がっていたという感想。しかし、戦争の真実に触れたという感覚は思いのほか薄い。
第三十七回受賞作(1957年)
わたしの評価 ☆
わたしの印象に残った選評 その他の候補作といちじるしく異っていた。現在の小説作法による小説である。したがって、作者が「小説作り」であるという感もないではない。要は作者が小説を作らないではいられないところまで、どういう風に追われて来たかの問題であろう(川端康成)
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