大江健三郎の政治的思想などの問題に関して一度目をつぶって考えると、この小説の特色は「黒人兵に対する差別・偏見」を主人公に一切持たせず、かわりに知覚のみの興味や執着で行動させるという点にある。
「クロンボ」の飼育? という話になってきた時に、空から撃ち落された黒人兵に対して当時の村人たちはどう思うだろうか、という我々一般読者の当然の思索を、純粋な感覚からくる興奮でかいくぐる少年や、そんな彼の周囲の村人たちとの温度差を楽しむ小説なのかもしれないとなんとなく思った。のだが、主人公以外の村人がみな東洋人のステレオタイプを完璧に捉えたような人物として描写されており、その点は釈然としない。とはいえ、主人公がこれほどまでに純粋で直情的なのだから、繊細さを含ませる方が却って邪魔になるのかもしれないが、そういったことを当時学生であった大江に思索する余地はあったのだろうか。
第三十九回受賞作(1958年)
わたしの評価 ☆
わたしの印象に残った選評 発足するにおいて托する主人公の優秀な五感をはっきり六根に擬装させ、これでもって陳腐へ左様ならしながらまともな作者の影を写していると思いました。自己満足癖を否定している点にも新鮮味を感じました。こんなのは流行だと感じるのはこちらが古いんだと知れと秘かに頷きました(井伏鱒二)
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