どうも、お久です。
いっぱい書き溜めてたのでよろしくです、、、
疲れた、、、
いっぱい書き溜めてたのでよろしくです、、、
疲れた、、、
あらすじ
交通事故に巻き込まれた中学一年生の少年、悠太。
次に目を覚ました場所は、情報が現実となり、人々が コード という力を操る電脳世界だった。
そこで彼を待っていたのは、画面越しでしか会えなかった歌姫、初音ミク。
ミクや仲間たちとの再会を果たした悠太は、未知の世界での生活を始める。
この世界では、プログラムコードが現実を書き換える力となり、人々はその技術を使って暮らしていた。
しかし、人間である悠太は、その力を使うたびに脳へ大きな負荷がかかってしまう。
それでも仲間たちと笑い合い、ともに過ごす中で、悠太は少しずつ新しい居場所を見つけていく。
やがて彼は、この世界の常識を覆す 人間だけが持つ可能性 と向き合うことになる。
これは、一人の少年と一人の歌姫が紡ぐ、電脳世界での成長と絆の物語。
目次
第10話 Welcome to the Digital World
最初に感じたのは、不思議な浮遊感だった。
身体が沈んでいるような気もするし、逆にどこかへ引っ張り上げられているような気もする。眠りに落ちる瞬間に少し似ていたが、それとも違う。意識だけが暗闇の中を漂い続けているような感覚だった。
どれくらいそうしていたのかは分からない。
数秒だったかもしれないし、何時間も経っていたのかもしれない。
やがて暗闇の中に小さな光が現れた。
青白い光だった。
最初は一つだけだったそれが次第に増え、無数の粒となって周囲を漂い始める。蛍にも似ているが、もっと規則正しい。一定の間隔で明滅しながら流れていく様子は、まるで電子回路の中を走る信号のようだった。
その光景を眺めているうちに、少しずつ感覚が戻ってきた。
指先。
腕。
足。
呼吸。
そして心臓の鼓動。
失われていたものが順番に身体へ戻ってくる。
その瞬間、脳裏に白い光が走った。
雪。
踏切。
迫ってくる電車。
思い出したくもない光景が一気に蘇り、悠太は勢いよく目を開いた。
「っ……!」
肺に空気が流れ込む。
何度か咳き込みながら身体を起こすと、見知らぬ部屋が視界に飛び込んできた。
天井は高く、淡い水色の光が部屋全体を照らしている。壁には細い発光ラインが張り巡らされ、その中をアルファベットや数字の列がゆっくりと流れていた。
部屋の隅には白と水色を基調としたグランドピアノが置かれ、その近くには複数のモニターが並んでいる。壁際では小型サーバーらしき機械が静かな駆動音を響かせていた。
生活感はある。
だが、普通ではない。
学校の先生が見たら卒倒しそうな量の電子機器が並んでいるし、研究施設だと言われた方が納得できるような光景だった。
「……なんだよ、ここ」
思わず呟いた声は、自分でも驚くほど弱々しかった。
返事はない。当然だ。ここがどこなのかも分からないのだから。
しかし、自分の声がわずかに震えていることだけは嫌というほど分かった。事故の記憶が頭から離れないのだ。
あれは夢だったのだろうか。
そう考えてみるものの、夢だと思うには鮮明すぎた。雪の残る道も、踏切も、目の前いっぱいに迫ってきた電車も、今でもはっきり思い出せる。
ならばここは病院なのだろうか。
悠太は改めて周囲を見回した。しかし病院にしては妙だった。医者や看護師の姿は見当たらないし、消毒液の匂いもしない。
代わりに空気の中には、ほんのりと甘い香りが混ざっていた。
どこかで嗅いだことがある気がする。
何の匂いだっただろうか。
記憶を辿ろうとしたその時、廊下の向こうから大きな物音が響いた。
ガタンッ。
続いて慌ただしい足音。
ドタドタドタドタッ!
一人ではない。少なくとも数人が全力でこちらへ向かって走ってきている。
何事だと思う間もなく、部屋のドアが勢いよく開いた。
「うそぉぉぉぉぉっ!?」
聞き覚えのある声だった。
あまりにも聞き覚えがありすぎて、一瞬理解が追いつかない。
そんなはずがない。
だって、その声は。
学校のタブレット越しに何度も聞いた。休日の夜にも聞いた。何気ない雑談をしている時も、くだらないことで笑い合っている時も、いつも聞いていた声だ。
悠太はゆっくりと顔を上げた。
ドアの前に立っていた少女を見た瞬間、思考が止まる。
長い青緑色のツインテール。
見慣れた服装。
信じられないものを見るように見開かれた瞳。
その姿を見間違えるはずがなかった。
「……ミク?」
少女はしばらく口をぱくぱくと動かしていたが、やがて我に返ったように叫んだ。
「なんでマスターがここにいるのぉぉぉぉぉっ!?」
その声を聞きつけたように、廊下からさらに何人もの足音が近づいてくる。
「ミク!? どうしたの!?」
「何かあったのか!?」
「朝から騒がしいなぁ……」
次々と部屋へ入ってきたのは、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、重音テト、GUMI、そしてKAITOだった。
全員が悠太の姿を見た瞬間、言葉を失う。
部屋の中が静まり返った。
誰もが、目の前の光景を理解できずにいた。
やがて最初に口を開いたのは、ミクだった。
「……本当に、マスター?」
震える声だった。
夢でも幻でもないことを確かめるように、一歩、また一歩と悠太へ近づいてくる。
悠太も戸惑いながら頷いた。
「俺も何が起きたのか分からない。でも……ミク、なんだよな?」
その言葉を聞いた瞬間、ミクの瞳に涙が浮かんだ。
「よかった……ちゃんとマスターだ……!」
次の瞬間、ミクは勢いよく悠太へ飛びついた。
「ちょっ、ミク!?」
悠太は慌てて受け止める。
肩越しに聞こえてきたのは、小さく震える声だった。
「また……会えた……」
その一言には、言葉では表せないほどの安堵が込められていた。
11bit目 再会の歌姫(前編)
部屋の中を静寂が包んでいた。
ついさっきまで慌ただしく響いていた足音も、今ではすっかり止んでいる。
悠太も、目の前に集まった人たちも、お互いに言葉が出なかった。
信じられない。
その一言だけが、この場にいる全員の頭の中を巡っている。
最初に動いたのはミクだった。
悠太の肩からゆっくりと身体を離すと、涙をぬぐいながら何度もその顔を見つめる。
「……やっぱりマスターだ。」
震える声だった。
夢じゃない。
見間違いでもない。
何度も画面越しに話してきた相手が、今こうして目の前にいる。
その事実を確かめるように、ミクは小さく微笑んだ。
「ミク……。」
悠太もようやく声を絞り出す。
「本当に、お前なんだよな。」
「うん。」
ミクは力強く頷いた。
「ちゃんと、本物だよ。」
その返事を聞いた瞬間、悠太の肩から少しだけ力が抜けた。
事故の記憶。
見知らぬ部屋。
目の前にいる初音ミク。
何もかも現実離れしているのに、その声だけは間違いなく自分の知っているものだった。
「ねぇねぇ!」
元気な声が静寂を破る。
「ミク、その人がマスター?」
悠太が振り向くと、金色のリボンを付けた少女が興味津々な様子でこちらを見つめていた。
その隣では、よく似た顔立ちの少年が少し困ったように笑っている。
「リン、急に近付きすぎだよ。」
「あっ、ごめん!」
少女は慌てて一歩下がった。
その様子を見て、悠太も思わず苦笑する。
すると、落ち着いた雰囲気の女性が優しく微笑んだ。
「驚かせてしまいましたね。」
その声には不思議と安心感があった。
さらに緑色の髪の少女が身を乗り出す。
「人間って、本当に私たちと変わらないんだね!」
「ちょっとGUMI、失礼よ。」
赤いツインドリルの少女が小さく肩をすくめる。
「でも、確かに興味はあるわ。」
最後に、一番背の高い青年が穏やかな笑みを浮かべた。
「まずは自己紹介をしようか。」
悠太は一人ひとりの顔を見回した。
見覚えはある。
ネットの記事や動画で見かけたこともある。
でも、実際に会うのはもちろん初めてだった。
そんな悠太の様子に気付いたミクが、小さく笑う。
「みんな、改めて自己紹介しよっか。」
「私は鏡音リン!」
リンは元気よく手を挙げる。
「僕は鏡音レン。よろしくね。」
レンは穏やかに頭を下げた。
「巡音ルカです。よろしくお願いします。」
「私はGUMI! いっぱい仲良くしようね!」
「重音テトよ。よろしく。」
テトは少し照れ隠しをするように腕を組む。
「そして俺はKAITO。」
青年は優しく笑った。
「ようこそ、電脳世界へ。」
その言葉を聞いても、悠太はまだ実感が湧かなかった。
「……よろしく。」
それだけ答えるのが精一杯だった。
自己紹介が終わると、ミクは少しだけ照れくさそうに笑う。
「なんか、改めて紹介すると恥ずかしいね。」
「確かに。」
KAITOも苦笑する。
「それより。」
悠太は部屋の中を見回した。
壁には複数のモニターが並び、その一部では見たこともないプログラムが動いている。棚には電子部品や工具が整然と並べられ、部屋全体が研究室のような雰囲気を漂わせていた。
ふと窓の外へ目を向ける。
思わず息を呑んだ。
高層ビルが立ち並ぶ街並み。
その間を静かに飛び交う配送ドローン。
建物の壁面には巨大な立体広告が映し出され、空中には透明な案内パネルが浮かんでいる。
どこか近未来の都市にも見える。
けれど、現実のどこにも存在しない景色だった。
「……すごい。」
自然とそんな言葉が漏れる。
ミクは悠太の隣まで歩いてくると、同じ景色を見つめた。
「ここが、私たちの住む世界。」
その一言には、この街への愛着が感じられた。
悠太は何も言わず、もう一度窓の外を見る。
事故のあとに目覚めた世界。
画面の向こうでしか知らなかったミクが、本当に生きている世界。
その光景は、不安よりも先に、胸が高鳴るような期待を悠太の中に芽生えさせていた。
11bit目 再会の歌姫(中編)
窓の外に広がる景色を眺めていた悠太は、しばらく言葉を失っていた。
空をゆっくりと横切る輸送ドローン。
高層ビルの壁面いっぱいに映し出された立体広告。
道路にはタイヤの付いた車だけでなく、静かに浮遊しながら移動する小型の搬送機も行き交っている。
どこを見ても現実とは違う。
まるでゲームや映画の世界が、そのまま目の前に広がっているようだった。
「驚いた?」
ミクが隣で笑う。
「……正直、まだ夢を見てる気分だ。」
「最初はみんなそんな感じだよ。」
「みんな?」
悠太が首を傾げると、ミクは「あっ」と口を押さえた。
「えっと……この世界で生まれた子でも、小さい頃は同じような反応をするってこと!」
「なるほど。」
ミクは内心でほっと胸をなで下ろした。
(危ない危ない……。転生してきた人が他にもいるなんて勘違いされたら大変だよ。)
そんなミクの様子には気付かず、悠太は再び街を見つめる。
「……ここ、本当に現実なんだな。」
「うん。」
ミクは優しく頷いた。
「ここは私たちが暮らしてる世界。」
その言葉を聞いた時、悠太はようやく少しだけ実感が湧いてきた。
事故のあと、自分は助かったのではない。
別の世界へ来てしまったのだ。
◇◇◇
「そうだ!」
リンが手を叩く。
「ずっとここにいても仕方ないよ!」
「確かに。」
KAITOも頷いた。
「今日は家に帰ろうか。」
「家?」
悠太が聞き返す。
「うん。」
ミクが笑顔で答える。
「私たち、みんなでシェアハウスしてるの。」
「全員で?」
「そう。」
ルカが説明を引き継ぐ。
「この辺りは物価が高いんです。一人暮らしだと生活費がかなりかかってしまうので、自然と一緒に暮らすようになったんですよ。」
「その方が楽しいしね!」
GUMIが笑顔で言う。
「ご飯もみんなで食べられるし!」
「食費も抑えられるしね。」
レンも苦笑する。
「合理的なんだ。」
「現実的って言って。」
テトが肩をすくめる。
悠太は思わず笑ってしまった。
世界は違っても、こういう何気ないやり取りは変わらないらしい。
◇◇◇
建物を出ると、ひんやりとした風が頬を撫でた。
見上げれば、空は現実と変わらない青色をしている。
しかし、その中を流れているものは雲だけではなかった。
透明な情報ウィンドウが空中に浮かび、街の案内やニュース、天気予報がゆっくりと切り替わっている。
「空までディスプレイなのか……。」
「便利でしょ?」
ミクが得意そうに笑う。
「必要な人にだけ見える情報もあるんだよ。」
「どういうこと?」
「例えば私は音楽関係の情報が多く表示されるし、レンは開発者向けのニュースが優先されるの。」
「へぇ……。」
歩いているだけでも驚くことばかりだった。
店先にはホログラムの看板が並び、商品の映像が立体的に飛び出している。
パン屋からは焼きたての香りが漂い、カフェでは楽しそうに談笑する人たちの姿が見える。
街の人々も、自分たちとほとんど変わらない。
笑って、話して、買い物をして、毎日を生きている。
「……普通なんだな。」
「え?」
「もっと機械ばかりの世界かと思ってた。」
ミクは少し考えてから笑った。
「私たちも普通に暮らしてるからね。」
「便利なことは多いけど、ご飯も食べるし、寝るし、おしゃべりもするよ。」
「ゲームもする!」
リンが元気よく手を挙げる。
「お菓子も食べる!」
GUMIも続く。
「アイスは私のだからね。」
テトが真顔で付け加える。
「勝手に食べたら許さないわよ。」
「いや、この前自分で忘れてたじゃん。」
「レン、それは言わない約束。」
一瞬の静寂。
そして全員が吹き出した。
悠太もつられて笑う。
事故以来、初めて心の底から笑えた気がした。
その様子を見たミクは、小さく息をつく。
(……よかった。)
(少しだけ笑ってくれた。)
その笑顔を見られただけで、胸の中に張り詰めていたものが少し軽くなった気がした。
11bit目 再会の歌姫(後編)
住宅街へ入ると、街の景色は少しずつ穏やかなものへと変わっていった。
中心部に立ち並んでいた超高層ビルは姿を減らし、代わりに二階建てや三階建てほどの建物が並んでいる。街路樹の葉は風に揺れ、歩道には買い物帰りと思われる人たちが楽しそうに会話をしながら歩いていた。
その光景は、人間の世界と大きく変わらない。
違うのは、空中を静かに飛ぶ配送ドローンや、家の壁に浮かぶホログラム式の表札くらいだった。
「ここだよ。」
ミクが足を止める。
悠太が顔を上げると、白を基調とした三階建ての家が目の前に建っていた。
外壁には淡い水色のラインが入り、窓は大きく開放感がある。庭には季節の花が植えられ、小さな家庭菜園まで作られていた。
「思ってたより普通だ……。」
思わず漏れた言葉に、KAITOが笑う。
「もっと未来っぽい家を想像してた?」
「少しだけ。」
「家まで全部機械だらけだと落ち着かないからね。」
レンも微笑みながら玄関のロックを解除する。
扉が静かに横へスライドし、温かな空気が外へ流れ出た。
「おかえりー!」
リンが真っ先に駆け込んでいく。
「ただいまー!」
GUMIも続き、そのままソファへ飛び込んだ。
「こら、靴を脱いでから!」
ルカの注意に、二人は慌てて引き返す。
そんなやり取りを見て、悠太は思わず笑みをこぼした。
緊張していた気持ちが、少しずつほどけていく。
玄関を上がると、広々としたリビングが目に入った。
大きなダイニングテーブルに、ふかふかのソファ。壁際には本棚やゲーム機、そして高性能なパソコンが何台も並んでいる。
生活感のある空間と、研究室のような設備が違和感なく同居していた。
「ここがみんなで使うリビングだよ。」
ミクが嬉しそうに説明する。
「ご飯を食べたり、おしゃべりしたり、映画を見たり……ほとんどここに集まってるかな。」
悠太は部屋を見回しながらゆっくり歩く。
テーブルの上には開きっぱなしの雑誌。
ソファにはクッションがいくつも転がり、お菓子の袋が一つ置かれている。
その光景は、どこにでもある学生のシェアハウスのようだった。
「……安心した。」
ぽつりと呟く。
「え?」
「もっと、機械だけの生活を想像してた。」
ミクは少し考えてから笑った。
「便利な道具はいっぱいあるけど、暮らしてるのは私たちだからね。」
「普通に笑うし、普通にご飯も食べるし。」
「たまに夜更かしして怒られるしね。」
レンが苦笑すると、リンが視線をそらす。
「……誰のこと?」
「昨日ゲームして朝まで起きてた人。」
「レンだって研究してたじゃん!」
「僕はちゃんと区切りがついたから寝たよ。」
「うっ……。」
言い返せなくなったリンに、部屋中が笑いに包まれる。
その空気が心地よくて、悠太も自然と笑っていた。
その時、KAITOがキッチンからコップを持って戻ってきた。
「そういえば悠太、この世界にはまだ慣れてないよね。」
「はい。」
「買い物なんかも、そのうち覚えていけば大丈夫。」
「お金とかも違うんですか?」
悠太の質問に、レンが頷く。
「この世界では『USB』っていう電子通貨を使ってるんだ。」
「USB?」
「正式名称は長いから、みんなUSBって呼んでる。」
レンはテーブルに小さな端末を置いた。
画面には残高が表示され、その横には買い物の履歴が並んでいる。
「人間の世界のお金とはまったく別物だから、相互に変換はできないんだ。」
「この世界だけで使われている通貨なんだよ。」
「なるほど……。」
悠太は新しい常識を一つ覚えた。
まだ分からないことばかりだ。
けれど、不思議と不安は少なかった。
この人たちが隣にいてくれる。
それだけで、心が少し軽くなる。
その時だった。
ぐぅぅぅ……。
静かなリビングに、お腹の鳴る音が響いた。
一瞬だけ全員が固まる。
そして視線が、一人に集まった。
「……えへへ。」
リンが照れ笑いを浮かべた。
「朝ご飯少なかったから。」
「リンらしいね。」
ルカが優しく笑う。
するとGUMIが勢いよく立ち上がった。
「ねぇ!」
全員がGUMIを見る。
「せっかくだしさ!」
目を輝かせながら、彼女は大きく両手を広げた。
「今日はマスターの歓迎会にしようよ!」
その提案に、部屋の空気がぱっと明るくなる。
「いいね!」
「賛成!」
「久しぶりにみんなで集まれるし。」
「買い出しにも行かなきゃね。」
みんなが次々と予定を話し始める。
その輪の中心には、いつの間にか悠太もいた。
事故に遭ったあの日までは想像もしなかった未来。
画面越しでしか会えなかった歌姫たちと、同じ家で笑い合っている。
その現実を少しずつ受け入れながら、悠太は胸の奥で小さく決意した。
(この世界で、新しい一歩を踏み出してみよう。)
そんな彼を見て、ミクは誰にも気付かれないように、そっと微笑んだ。
(ようこそ、マスター。今度は画面の向こうじゃなくて、同じ世界で一緒に歩いていこうね。)
12bit目 歌姫たちの歓迎会(前編)
朝日がカーテンの隙間から差し込み、部屋を柔らかな光で満たしていく。
悠太はゆっくりと目を開けた。
見慣れない天井。
昨夜までは夢だと思いたかった景色が、今朝も変わらずそこにある。
「……本当に、この世界に来たんだ。」
小さく呟きながら身体を起こす。
窓の外を見ると、澄んだ青空の中を数機の配送ドローンが静かに飛んでいた。遠くでは巨大なホログラム広告がゆっくりと切り替わり、朝のニュースを映し出している。
それでも街は静かだった。
現実の朝と変わらない穏やかな時間が流れている。
その時だった。
コンコン。
軽くドアを叩く音が聞こえる。
「マスター、起きてる?」
聞き慣れた声に、悠太は自然と笑みを浮かべた。
「起きてるよ。」
ドアがゆっくり開き、ミクが顔を覗かせる。
「おはよう!」
朝日に照らされた笑顔は、昨日よりもずっと自然だった。
「おはよう、ミク。」
「よかったぁ。まだ疲れてるかなって少し心配してたんだ。」
「少し寝たらだいぶ楽になった。」
「なら安心!」
ミクはほっと胸をなで下ろし、廊下を指差した。
「みんなもう起きてるよ。朝ご飯できてるから、一緒に食べよ!」
悠太は頷くと、軽く身支度を整えて部屋を出た。
◇◇◇
リビングへ入ると、香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がっていた。
テーブルには焼きたてのパンやサラダ、スクランブルエッグにスープまで並んでいる。
「おっ、主役が来た!」
KAITOが笑顔で手を振る。
「おはよう!」
リンも元気よく挨拶する。
「おはようございます。」
ルカが微笑み、レンとGUMI、テトもそれぞれ声を掛けてくれた。
悠太は少し照れくさそうに頭を下げる。
「おはよう。」
昨日まで一人だったとは思えないほど賑やかな朝。
椅子へ座ると、ミクが温かいスープを差し出してくれた。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
一口飲む。
優しい味だった。
思わず肩の力が抜ける。
「おいしい……。」
「でしょ?」
ミクが嬉しそうに笑う。
「ルカさんが作ってくれたんだ。」
「みんなで少しずつ手伝いましたけどね。」
ルカは照れたように微笑んだ。
「リンはパンを並べただけだけど。」
レンの一言に、リンがむっと頬を膨らませる。
「ちゃんと働いたもん!」
「並べながら一個つまみ食いしてたけどね。」
「れ、レンー!」
テーブルから笑い声が広がる。
悠太もつられて笑ってしまった。
この空気が、とても心地いい。
◇◇◇
朝食を終える頃、GUMIが勢いよく立ち上がった。
「それじゃあ!」
全員の視線が集まる。
「今日は歓迎会の日!」
「その前に買い出しだね。」
KAITOが腕時計型の端末を操作する。
空中へ買い物リストが表示された。
ジュース。
お菓子。
果物。
ケーキ。
紙皿。
その一覧を見ているだけで、なんだか楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
「こんなに買うの?」
悠太が驚くと、リンが笑顔で親指を立てた。
「歓迎会なんだから豪華にしないと!」
「食べきれるのか……?」
「食べきれなかったこと、一回もないよ。」
レンが苦笑する。
「特にリンとGUMIがいるから。」
「失礼だなぁ!」
「本当のことでしょ。」
また笑いが起こる。
そのやり取りを見ているだけで、自然と頬が緩んでしまう。
すると、ミクが悠太の隣へやって来た。
「そうだ。」
「?」
「今日は買い物しながら、この世界のことも少し案内するね。」
「助かる。」
「まだ分からないことばっかりだもんね。」
悠太は素直に頷いた。
昨日は目の前の出来事についていくだけで精一杯だった。
でも今日は違う。
少しだけ余裕ができたからこそ、この世界を知りたいという気持ちが強くなっていた。
玄関で靴を履き終えると、ミクが振り返る。
「じゃあ、行こっか!」
その笑顔につられるように、悠太も笑って頷いた。
画面越しではなく、本当に隣を歩く歌姫。
その一歩が、新しい日常の始まりを静かに告げていた。
12bit目 歌姫たちの歓迎会(中編)
玄関を出ると、朝の澄んだ空気が頬を優しく撫でた。
住宅街には穏やかな時間が流れている。
庭の手入れをする人や、散歩を楽しむ家族連れ。子どもたちは公園で元気よく走り回り、その上空では小型の配送ドローンが静かに荷物を運んでいた。
昨日見た中心街とは違い、この辺りはどこか落ち着いた雰囲気が漂っている。
「ここは住宅エリアなんだ。」
ミクが歩きながら説明する。
「学校も病院も公園も、この辺に集まってるよ。」
「普通の街なんだな。」
「うん。便利だけど、ちゃんと暮らすための街だからね。」
悠太は頷きながら周囲を見回した。
未来的な設備は多い。
それでも、生活そのものは人間の世界と大きく変わらないように思えた。
◇◇◇
十分ほど歩くと、景色が少しずつ賑やかになってきた。
商店街の入り口には巨大なアーチが設置され、その上には立体映像で店の案内が流れている。
パン屋、書店、ゲームショップ、楽器店。
どの店も個性的で、歩いているだけでも飽きない。
「今日はこのショッピングモールで買い物するよ。」
KAITOが指差した先には、ガラス張りの大きな建物が建っていた。
建物の外壁には色鮮やかな広告が浮かび、季節限定のお菓子や新発売の商品が映し出されている。
「大きい……。」
「休日はもっと混むんだ。」
レンが苦笑する。
「今日は平日だから、まだ歩きやすい方かな。」
自動ドアが静かに開き、一行は中へ入った。
館内は明るく、天井まで吹き抜けになっている。
店内を案内する小型ロボットが静かに巡回し、空中にはフロアマップが浮かんでいた。
思わず足を止める悠太に、ミクが小さく笑う。
「最初は私もびっくりしたよ。」
「……ミクも?」
「うん。この街で生まれ育ったけど、小さい頃は全部が大きく見えたから。」
その言葉に、悠太は少し安心した。
◇◇◇
スーパーへ入ると、GUMIとリンが真っ先にお菓子コーナーへ駆け出した。
「新作あるかな!」
「限定味あるといいな!」
「走らない!」
ルカの声が店内に響く。
レンは苦笑しながら買い物かごを手に取った。
「毎回あんな感じなんだ。」
「慣れてるんだな。」
「もう止めても無駄だからね。」
そんな会話をしながら歩いていると、悠太はレジの横に並ぶ表示へ目を向けた。
そこには価格の横に、見慣れない単位が表示されている。
『42 USB』
『185 USB』
『1,240 USB』
「このUSBって……。」
レンが立ち止まり、端末を取り出した。
「昨日少しだけ話した通貨だね。」
空中へ小さな画面が映し出される。
「USBは、この世界だけで使われている電子通貨なんだ。」
「現実のお金とは変換できない。」
「そう。」
レンは頷いた。
「それともう一つ。」
画面に、新しい説明が表示される。
HP(生命容量)
USB(生活用通貨)
「この二つは完全に別なんだ。」
悠太は画面を見つめる。
「HPって……。」
「生命活動やコード実行で使われる容量。」
レンは続ける。
「USBは買い物や生活だけに使う通貨。」
「だから、USBを使ってHPを回復することもできないし、HPをUSBへ変えることもできない。」
「全部別管理なんだ。」
「そういうこと。」
その説明を聞いて、悠太は少し納得した。
ゲームのようでいて、ゲームとは違う。
命と生活が、それぞれ独立して管理されている世界なのだ。
◇◇◇
「マスター!」
少し離れた場所からミクが手を振る。
「見て見て!」
駆け寄ると、ミクは棚に並ぶお菓子を指差していた。
「これ、新商品なんだって。」
パッケージを見る。
そこには大きく書かれていた。
『ネギ風味チップス』
「…………。」
悠太は黙ってミクを見る。
ミクも無言で商品を見る。
「……どう?」
「うーん。」
少し考え込んだあと、小さく笑った。
「ネギは好きなんだけどね。」
「うん。」
「お菓子になると、ちょっと違うかな……。」
「だよね。」
二人で顔を見合わせ、思わず笑ってしまう。
その様子を見ていたリンが声を上げた。
「えぇー!? 絶対ミクが買うと思ったのに!」
「ネギ全部が好きってわけじゃないもん!」
少し頬を膨らませるミクに、周りのみんなも笑い出す。
そんな賑やかな空気の中、悠太はふと棚の上に飾られたポスターへ目を向けた。
そこに描かれていたのは、鮮やかな青緑色のツインテールを揺らす一人の歌姫だった。
「ミク。」
「ん?」
「この世界にも、有名なんだな。」
ミクは少し照れくさそうに笑う。
「えへへ……。」
ルカが優しく説明を続ける。
「この世界では、『初音ミク』という存在だけが歌姫として広く知られているんです。」
「リンちゃんやレン君たちは、一般の人には普通の住民として知られています。」
「なるほど……。」
悠太は改めてポスターを見る。
人間の世界では、みんながボーカロイドとして知られていた。
けれど、この世界では違う。
ミクだけが 歌姫 として人々に愛され、そのほかのみんなは、それぞれの人生を歩いている。
その違いが、この世界が現実であることを静かに教えてくれていた。
12bit目 歌姫たちの歓迎会(後編)
買い物袋を両手いっぱいに抱え、一行はシェアハウスへ戻ってきた。
玄関のドアが開くと、リンは待ちきれない様子で駆け込んでいく。
「よーし! 準備開始!」
「リン、袋!」
「あっ!」
慌てて引き返したリンに、レンが苦笑しながら買い物袋を手渡した。
「落としたら大変だからね。」
「わ、分かってるって!」
そんな二人のやり取りを見て、悠太は自然と笑みを浮かべる。
昨日は緊張してばかりだった。
でも今日は違う。
少しずつ、この家の空気が心地よく感じられるようになっていた。
◇◇◇
キッチンではルカとKAITOが料理を始め、ミクとGUMIはテーブルへお菓子を並べていく。
リンは紙皿やジュースを用意し、レンはホログラムプロジェクターの設定をしていた。
「僕は映像担当。」
レンが笑いながら小型端末を操作すると、リビングの壁に色鮮やかな映像が映し出される。
青空。
流れる音符。
優しく光るイルミネーション。
まるでライブ会場のような雰囲気になった。
「すごい……。」
悠太が思わず声を漏らす。
「これもコード?」
「違うよ。」
レンは首を横に振る。
「これは普通の映像技術。」
「コードはもっと特別なものなんだ。」
その言葉に、悠太は少しだけ興味を抱く。
コード 。
昨日から何度か耳にしているその言葉。
まだ詳しくは知らない。
けれど、それがこの世界で大切な技術なのだということだけは伝わってきた。
◇◇◇
「完成ー!」
ルカがエプロンを外す。
テーブルには色とりどりの料理が並び、お菓子やジュースも所狭しと置かれていた。
サンドイッチにグラタン、サラダ、唐揚げ。
その横には大きなケーキまで用意されている。
「こんなに……。」
悠太は目を丸くする。
「歓迎会だからね。」
ミクが少し照れながら笑った。
「みんな張り切っちゃった。」
「特にルカさん。」
レンが小さく笑う。
「朝から仕込みしてたし。」
「みんなが喜んでくれるなら、そのくらいは。」
ルカは優しく微笑んだ。
◇◇◇
全員が席へ着く。
KAITOがグラスを持ち上げると、自然と部屋が静かになった。
「それじゃあ。」
穏やかな声がリビングに響く。
「新しい仲間との出会いに。」
ミクが悠太の方を見る。
その瞳は昨日よりもずっと柔らかかった。
「マスター。」
小さく名前を呼ぶ。
「改めて。」
嬉しそうに笑って言った。
「ようこそ、私たちの世界へ。」
悠太は少し照れながらグラスを持ち上げる。
「ありがとう。」
「乾杯!」
『乾杯!』
グラスの音が重なり、歓迎会が始まった。
◇◇◇
食事が進むにつれ、部屋は笑い声でいっぱいになっていく。
「リン、それ僕のプリン。」
「早い者勝ち!」
「違うから!」
「まあまあ。」
KAITOが苦笑しながら新しいプリンを取り出す。
「ちゃんと買ってあるよ。」
「やったー!」
一方、ミクはお菓子の袋を開けながら困ったような表情を浮かべていた。
「どうしたの?」
悠太が尋ねる。
「リンがね……。」
目の前には、あのスーパーで見かけた『ネギ風味チップス』。
「買ってきちゃった。」
「だって気になったんだもん!」
リンが笑顔で袋を差し出す。
「はい、ミク!」
「うぅ……。」
ミクは少し迷ったあと、一枚だけ口へ運ぶ。
全員が見守る中、ゆっくりと噛んでいく。
「……。」
「……。」
「……。」
数秒後。
「やっぱり普通のポテトチップスがいいかな。」
その一言で部屋中が笑いに包まれた。
「ほらー!」
「だから言ったじゃん!」
「ネギは好きだけど、お菓子は別なんだって!」
ミクは少し頬を赤くしながら笑っていた。
◇◇◇
楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
気が付けば窓の外は夕焼け色に染まり、街のホログラム広告にも夜の光が灯り始めていた。
悠太はソファへ腰掛けながら、その景色を眺める。
昨日まで暮らしていた世界。
家族。
学校。
友達。
全部失ってしまったと思っていた。
それでも今、自分は一人ではない。
隣にはミクたちがいる。
笑って、話して、一緒にご飯を食べてくれる仲間がいる。
ミクは静かに悠太の隣へ座った。
「今日はどうだった?」
悠太は少しだけ考えてから答える。
「まだ分からないことばかりだけど……。」
一度、部屋のみんなを見回す。
リンはGUMIとゲームを始め、レンはその様子を見ながら笑っている。
ルカは食器を片付け、KAITOはテトと何か話し込んでいた。
賑やかで、温かい。
そんな景色だった。
「ここでなら、頑張れそうな気がする。」
その言葉を聞いたミクは、安心したように微笑んだ。
「うん。」
その返事には、短い言葉以上の想いが込められていた。
この日、悠太は新しい居場所を見つけた。
そして翌日。
彼は、この世界で生きるために必要な コード という力と、本格的に向き合うことになる。
12bit+(拡張版)目 女子会の夜
歓迎会が終わった頃には、外はすっかり夜になっていた。
リビングではKAITOたちが後片付けを終え、男子組はゲームの話で盛り上がっている。
「じゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
それぞれが自分の部屋へ戻っていく中、私は自室で水色のパジャマに着替え、大きく伸びをした。
「ふぅ……。」
今日は本当に、いろんなことがあった。
まさか、画面の向こうにいたマスターと、本当に同じ世界で会えるなんて。
今でも夢みたい。
そんなことを考えていると、部屋のドアが開いた。
「ミクー!」
元気いっぱいの声。
リンだった。
その後ろにはルカさん、GUMI、テトも立っている。
「女子会しようよ!」
リンは満面の笑みを浮かべる。
「今日は特別な日なんだから!」
「ふふっ、いいですね。」
ルカさんも微笑んだ。
「お茶も淹れてありますよ。」
私は思わず笑ってしまう。
「じゃあ、私の部屋で!」
◇◇◇
丸いラグの上へクッションを並べる。
私たちは自然と円になるように座った。
部屋には小さな間接照明だけが灯り、窓の外には夜景が静かに広がっている。
テーブルには温かいハーブティーと、お昼に残ったお菓子が並んでいた。
「それじゃあ!」
GUMIがお菓子を手に取る。
「女子会スタート!」
「いぇーい!」
リンも元気よく手を挙げる。
その様子に、みんなが笑った。
◇◇◇
「それでさ。」
テトがクッキーを一口かじる。
「今日の主役はどうだった?」
「マスター?」
私は少しだけ考える。
「まだ緊張してる感じだったかな。」
「でも、途中から笑ってくれたよね。」
GUMIが嬉しそうに言う。
「うん。」
私も自然と頷いた。
「昨日は本当に不安そうだったけど……今日は楽しそうに笑ってた。」
その笑顔を思い出すだけで、胸が温かくなる。
「よかったね。」
ルカさんが優しく微笑む。
「ミクさんが一番安心した顔をしていましたよ。」
「えっ?」
「歓迎会の途中。」
ルカさんは少し笑いながら続ける。
「マスターさんが笑った瞬間、ミクさんもすごく嬉しそうでした。」
「そ、それは……。」
急に恥ずかしくなってしまう。
「だって……。」
みんなの視線が集まる。
少し照れながら、私は本音を口にした。
「ずっと心配だったんだもん。」
部屋が静かになる。
「突然知らない世界へ来て……。」
「知ってる人も私しかいなくて。」
「もし、一人で苦しんでたらどうしようって。」
言葉にすると、改めて実感する。
歓迎会の間、何度も悠太の表情を見ていた。
ちゃんと笑えているかな。
無理してないかな。
楽しめているかな。
そんなことばかり考えていた。
「でも。」
私は小さく笑う。
「最後に『ここでなら頑張れそう』って言ってくれたから。」
胸の前で手を重ねる。
「すごく嬉しかった。」
◇◇◇
「ミク。」
リンがにこっと笑う。
「やっぱり大好きなんだね。」
「へっ!?」
「違うの?」
「そ、それは……。」
言葉が詰まる。
するとGUMIが楽しそうに笑い出した。
「顔真っ赤!」
「GUMI!」
「かわいいー!」
「もう!」
私はクッションを抱きしめて顔を隠した。
みんなの笑い声が部屋いっぱいに響く。
少し悔しい。
でも、それ以上に楽しかった。
◇◇◇
ひとしきり笑ったあと、窓の外を見る。
夜空には無数の光が瞬いている。
遠くには、この国を支える巨大な中央演算塔が静かに輝いていた。
あの塔の地下には、この世界全体を支える超高性能・超大容量のスーパーコンピューターが眠っている。
街も、人々の生活も、その力によって支えられている。
だけど。
人と人をつなぐものは、機械じゃない。
今日、改めてそう思えた。
「明日から忙しくなるね。」
ルカさんが静かに言う。
「うん。」
私は頷いた。
「きっとマスターも、コードの勉強を始めると思う。」
「レンが張り切りそう。」
テトが苦笑する。
「説明が止まらなくなるわね。」
また笑いが起こる。
そんな未来を想像すると、不思議と胸が弾んだ。
きっと大変なこともある。
危ないこともある。
それでも。
今度は画面の向こうじゃない。
同じ空の下で、一緒に歩いていける。
そのことが、何より嬉しかった。
私は窓の外へ小さく微笑む。
「改めて……。」
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「おかえり、マスター。」
その言葉は夜風に乗り、静かな街へと溶けていった。
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