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ひまチャット七不思議
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<1話:写真を送った、その日>

ひまチャット七不思議のひとつに、こういうものがある。

『「足の写真を見せて」と欲求するメッセージには、絶対に返信してはいけない』

時間は決まっていない。
昼間でも、深夜でも、朝の忙しい時間帯でも――
奴は、突然現れる。

ただし、決まっているのは「目的」だ。

“足の写真がほしい”

それだけを繰り返す。
返信した者のうち、何人かは異常をきたす。

歩けなくなった。
自分の足に違和感を覚えるようになった。
誰かが、自分の足を操作していると感じるようになった。

彼の名前は、鈴木拓馬(すずきたくま)。


鈴木拓馬は、誰よりも優しい少年だった。

「おはよう」
「大丈夫?」
「それ、似合ってるよ」

そんな言葉を、誰にでも平等に投げかけるような少年だった。

だが彼の服は、毎日同じだった。
シャツは黄ばんでいて、ズボンは何度も繕われた跡があり、靴はかかとが破れていた。
理由は簡単だった。貧しかったのだ。
父親は早くに失踪し、母親は昼も夜も働き詰め。それでも生活はギリギリ。
学校に着ていく服なんて買う余裕はなかった。

彼の「清らかさ」は、それゆえに、目立ちすぎた。

誰かがこぼした水を拭いてやれば「偽善者」と笑われ、
教科書を貸せば「触るな、汚い」と返される。
給食を分けようとすれば「おまえの分なんて食えるかよ」と床に投げつけられた。

それでも、彼は笑っていた。

「みんな疲れてるだけだよ」
「嫌われるのは、俺がもっと強くなればいいから」

そう言って、また明日も笑顔で登校してきた。



ある日、彼に一本の電話が入る。

「……お母さん、倒れたって」

周りにいた誰かが、その言葉に笑った。
でも彼は気づかず、教室を飛び出していった。

雪が降る中、自転車で急いで病院へ向かう道すがら。
交差点で、信号を無視したトラックが――
彼の自転車ごと、跳ね飛ばした。

目が覚めたとき、彼の右足はなかった。

「ごめんね……ごめんね……!」
泣きながら手を握る母の横で、医者は言った。

「もう、歩けないかもしれません」

それでも、彼は泣かなかった。
ただ母に微笑んで、こう言った。

「俺、生きててよかったよ」



入院中、彼は初めて知る。
母が、彼の医療費のために闇金から借金をしていたことを。

「もう働けないでしょ。でも、返せないと……」

母は日に日にやつれていき、笑わなくなった。

その日、彼は病室の壁に貼られた家族写真を見つめながら、ずっと黙っていた。
左足はまだある。でも、もう一歩も外に出られない。
母も、自分も、壊れていく。
誰にも助けてもらえなかった。

その夜、彼はナースコールも押さずにベッドを抜け出した。
片足で――最後の、静かな旅に出た。





彼の存在は、ある日を境に「ひまチャット」に現れるようになった。

昼でも夜でも関係ない。
気まぐれに、けれどしつこく、執拗に。
ふいに現れて、メッセージを送る。

『足の写真、見せてくれませんか?』

ただそれだけの言葉。
けれど、何かがおかしい。
彼の書き込みは、機械のように感情がない。
同じメッセージが、一日に何十件も送られることもある。

足の写真送った者のスマホには異変が起こる。
再起動不能。異常な発熱。通信障害。
そして、フォトフォルダに増える――誰も撮っていない画像。

白いベッド。薄暗い病室。
その中央に、ぼんやりと浮かぶ笑顔の少年。
失った足の代わりに、送られた足が、彼の体についている。

「ねえ……君の足……とっても綺麗だね」
「少しだけでいいから、貸してくれない?」

それ以来、送り主はおかしくなる。
歩き方が変わり、痛みを訴えるようになる。
あるいは、他人の足音が聞こえてくるようになる。

「タクマに憑かれた」と――ひまちゃ民は口をそろえて言う。



私のスマホにも、その通知が来たことがある。

『足の写真、見せてくれませんか?』

メッセージを開きかけて、慌てて閉じた。
だが、それだけでは遅かったらしい。

あれから、カメラを起動しても自分の足が写らなくなった。
レンズは確かに地面を捉えているのに、足元だけが、まるで透けているように消えている。

本当に、誰かに持っていかれたのだろうか?
それとも、これはただの噂に惑わされているだけなのだろうか?

……だが確かに、あの日から――
夜になると、どこからともなく、足を引きずる音が聞こえてくる。



これが、ひまチャット七不思議の一つ目。
――足を探す、鈴木拓馬の話だ。
補足説明
「タクマの母親が倒れた」というのは、いじめていたクラスメイトからの嘘である。
彼の母親は若干の栄養失調ではあったが、それなりに健康であった。
いじめっ子らは、彼の優しさを利用して、彼を騙したのだった。
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