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夜の来訪者
寝支度を終えてベッドに入ろうとした頃、玄関の扉が控えめにノックされた。二回、間を置いてもう一回。
「……こんな時間に誰だよ」
半分寝ぼけた頭のまま扉を開けると、そこに立っていたのはレンだった。ランタンの淡い光に照らされて、その手には大きめの布袋が抱えられている。
「夜分にごめんね。歓迎会の時に渡しそびれてたものがあって」
そう言って差し出されたのは、少し型落ちのノートPCと、指輪のような形をした装備だった。手の甲の上にくっつくように装着するタイプらしく、細部の作り込みが丁寧で、素人目にも力の入った品だとわかる。留め具の一つ一つに、丁寧なやすりがけの跡があった。
「これは……?」
「悠太用の装備一式だよ。PCと、このアーム――呼び方はまだ仮だけど、これを変換アダプターでつなげて使うんだ」
レンの説明はこうだった。PCに入力したコマンドを、変換アダプターを通してアームの中にある専用メモリーに書き込む。メモリーは独自規格で、スロットが三つ。開発途中な上にバッテリーの制約もあって、小規模なものなら二十から三十回、中規模なら十から十五回、大規模なものはまだ実行できないらしい。
「メモリーに書き込んだ内容は、上書きはできないんだけど、進行状況は見られるようになってるよ」
アームの裏側には、小さな表示部があった。ホログラムのような派手さはなく、手作り感のある簡素な作りだ。基盤がそのまま透けて見えるくらい、装飾を削ぎ落とした造りをしている。バッテリー残量と、書き込んだコマンドの進行状況が、地味だが実用的な形で表示されていた。数字が一つ変わるたびに、小さく点滅する仕組みらしい。
「実行するときは、書き込んだタグ名を言葉にして発言するだけ。あとはPCと連携させれば、アームの見た目とか機能も、ある程度変更できるよ」
「……なんか、すごいものもらっちゃったな」
「試しにやってみる?」
促されて、俺はPCを開いた。キーボードの感触は、見た目の古さに反して意外としっかりしている。適当なコマンドを打ち込み、変換アダプターを通してメモリーに書き込む。画面の端で、小さな読み込みバーがゆっくりと進んでいった。それをアームに装着し、表示されたタグ名を口にした。
「――《タグ・ゼロワン》」
次の瞬間、目の前に小さな何かが現れた。ふわりと空気が揺れて、光の粒が集まっていく。よく見ると、それは初音ミクを模した、可愛らしいポーズを取るフィギュアだった。
「……え」
しばらく、二人とも言葉が出なかった。
「あはは、それ悠太が選んだコマンドの結果だよ」
先に沈黙を破ったのはレンだった。にやにやしながら顔を覗き込んでくる。
「べ、別に狙って選んだわけじゃ……! 適当に打っただけだし!」
「そんなに慌てなくても」
「慌ててないし!」
顔が熱くなっているのが、自分でもわかった。レンはそれ以上追及することなく、ただ楽しそうに笑っていた。フィギュアはしばらくその場でゆっくりと回転を続けていたが、数十秒ほど経った頃、小規模コマンドにはあらかじめ表示時間の上限が決まっているらしく、輪郭がふっと薄くなって光の粒になり、消えていった。
「……こんな時間に誰だよ」
半分寝ぼけた頭のまま扉を開けると、そこに立っていたのはレンだった。ランタンの淡い光に照らされて、その手には大きめの布袋が抱えられている。
「夜分にごめんね。歓迎会の時に渡しそびれてたものがあって」
そう言って差し出されたのは、少し型落ちのノートPCと、指輪のような形をした装備だった。手の甲の上にくっつくように装着するタイプらしく、細部の作り込みが丁寧で、素人目にも力の入った品だとわかる。留め具の一つ一つに、丁寧なやすりがけの跡があった。
「これは……?」
「悠太用の装備一式だよ。PCと、このアーム――呼び方はまだ仮だけど、これを変換アダプターでつなげて使うんだ」
レンの説明はこうだった。PCに入力したコマンドを、変換アダプターを通してアームの中にある専用メモリーに書き込む。メモリーは独自規格で、スロットが三つ。開発途中な上にバッテリーの制約もあって、小規模なものなら二十から三十回、中規模なら十から十五回、大規模なものはまだ実行できないらしい。
「メモリーに書き込んだ内容は、上書きはできないんだけど、進行状況は見られるようになってるよ」
アームの裏側には、小さな表示部があった。ホログラムのような派手さはなく、手作り感のある簡素な作りだ。基盤がそのまま透けて見えるくらい、装飾を削ぎ落とした造りをしている。バッテリー残量と、書き込んだコマンドの進行状況が、地味だが実用的な形で表示されていた。数字が一つ変わるたびに、小さく点滅する仕組みらしい。
「実行するときは、書き込んだタグ名を言葉にして発言するだけ。あとはPCと連携させれば、アームの見た目とか機能も、ある程度変更できるよ」
「……なんか、すごいものもらっちゃったな」
「試しにやってみる?」
促されて、俺はPCを開いた。キーボードの感触は、見た目の古さに反して意外としっかりしている。適当なコマンドを打ち込み、変換アダプターを通してメモリーに書き込む。画面の端で、小さな読み込みバーがゆっくりと進んでいった。それをアームに装着し、表示されたタグ名を口にした。
「――《タグ・ゼロワン》」
次の瞬間、目の前に小さな何かが現れた。ふわりと空気が揺れて、光の粒が集まっていく。よく見ると、それは初音ミクを模した、可愛らしいポーズを取るフィギュアだった。
「……え」
しばらく、二人とも言葉が出なかった。
「あはは、それ悠太が選んだコマンドの結果だよ」
先に沈黙を破ったのはレンだった。にやにやしながら顔を覗き込んでくる。
「べ、別に狙って選んだわけじゃ……! 適当に打っただけだし!」
「そんなに慌てなくても」
「慌ててないし!」
顔が熱くなっているのが、自分でもわかった。レンはそれ以上追及することなく、ただ楽しそうに笑っていた。フィギュアはしばらくその場でゆっくりと回転を続けていたが、数十秒ほど経った頃、小規模コマンドにはあらかじめ表示時間の上限が決まっているらしく、輪郭がふっと薄くなって光の粒になり、消えていった。
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